余韻

新幹線車内に忘れ物をしてしまった。坐骨神経痛の予防のつもりで手に入れたクッションなのだが、降り際に手荷物確認をしただけで座席を振り返るのを怠った。

その日は和歌山での仕事からの帰りの新幹線で、そのまま東京駅まで行けばおそらく座席を振り向いたと思うが、次回セミナーの会場下見のために名古屋で途中下車するというイレギュラーな行動だったため、発車ベルに促されて慌てて降りてしまった。しかしどうあれ、言い訳である。新幹線は東京に向けてあっと言う間に走り去った。それから頭の片隅で「おーい、Myクッション、無事にJR職員さんに収容されててよぅ」と呼びかけつつ所用を片付けて行った。そしてほっとして、ではどこに連絡をするのか?そうこうしている内に翌朝になってしまった。でも「直後では収容作業が未だだろうから、1日過ぎたのは反って好都合かもしれない」などと思いつつ遺失物問い合わせの電話番号を探す。

この時代、どんな番号であれSNSで探すことになるのだが、私が見たサイトの一部に「遺失物関係のJR職員はけんもほろろ」という「あくまでも個人的な印象です」とは書いてないがキツイ感想があった。それを目にして「若いね、あなた」と私は思った。突っかかるような態度で切り出したのはあなたでしょう?と私は思ったのである。真面目に決められた任務をこなしている立場の人に、最初から思い通りの答えだけを要求する。クレーマーと言われてしまうひと達にありがちな、残念な態度を取ったに違いない。気を付けよう…、誰がどう見ても大人世代の年齢である、私。

電話番号を押すと、新幹線内への遺失物について話したい人は○番を押して待て、電話は混みあってます、というアナウンス。でしょうねえ、お疲れ様です、と思いつつバックミュージックを聞いていると程なく対応者の女性が出た。忘れ物はクッション、〇日の新大阪〇時発、〇号車のシート番号〇番、と私が言うのを辛抱強く聞いていた担当者は、「クッションの色と特徴を」と言う。そして「そのお忘れ物と思われるクッションが届いております」「もう少しお尋ねします。色は?」と詳細に確認していく。そして、そのクッションの番号を言いますので、東京駅の八重洲遺失物センターに行ってください、○日までに行かないと倉庫へ移動してしまいます、とのことだった。しかしそれで終わらなかった。「遺失物の担当からもう一度お電話をさせていただくかもしれません」。どうやら忘れ物が膨大らしいが、それならもう電話で再確認などよろしいのでは?と思ったが、はたして数時間後に電話があった。そして最初からもう一度しっかりと確認を受ける。ふと思ったのは、なぜそんなに詳細に(たかがクッションで)証明をとろうとするのだろうか? あとで出した私なりの結論は、「忘れ物のふりをして良くない物の受け渡しをする悪事」もあるのかしれない。それにしても、初めの対応者の女性も次の担当者の男性も、実に淡々とした業務態度だった。私は丁寧にくどすぎない程度にお礼を述べて電話を切った。

良い仕事は良い余韻を残す。私も余韻を残せる仕事をしたいものだ、と感謝しつつ思った。

A.Hashimoto's blog

母の心、ふんわりんりん…

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