働けど、働けど…
11月7日に開催したALLセミナーの日。質疑応答も終わり、プログラムがほぼ完了するところで、司会として講師・経験者の方々に「もう一言」とお願いした。そのとき経験者の1人の宮城順さんが自身のいまの暮らしを、「働けど働けど猶わが生活(暮らし)楽にならざり。ぢっと手を見る」(啄木)の言葉を引いて話してくれた。宮城さんは9歳のときに、小児CMLを家族ドナーからの移植で克服。それから10代も20代もずっと体調不良に悩まされながら成人となった。いわゆる晩期障害だが、当時はその言葉すらなかった。その不具合が、ひとに必須なホルモンのいくつかが不足(分泌無し)だったことによる、と判明したのが34歳だった。それから受けたホルモン補充療法によって体調は、本人もびっくりなほどに好転し、声変わりまでして、心身ともに充実したのだという。
ここ3年間ほど、宮城さんにできるだけ多くのセミナーやフォーラムで登壇してもらい、同時に内分泌の先生にも講演をお願いしてきた。治療後の長期フォローのたいせつさを当事者の経験と、対応している医療の双方から学ぶための貴重な機会をいただいている。
ただ、治療とそこから派生する問題はホルモンの不足だけではない。造血細胞移植ではGVHD初め、大量化学療法での治療の人も含めて、短期的長期的にフォローしなければならないことがたくさんある。ワクチン接種のやり直しもある。骨粗鬆症や白内障の早期発生にも注意しなければならない。つまり、医療と縁が切れないし、切ってはいけないのだ。アメリカでは小児がんが判明するとその子に対して「今から長期フォローが開始する」と告げる、と聞いたのはもう20年も前のことなのだが、日本の(少なくとも小児がん対応の)医療もついにいまその時代を迎えている。
ただそれは、医療費がずうっと必要だ、ということでもある。宮城さんも「内分泌に問題があってこんなに辛かったのか」と気づくことができたその前から、働き続けてきた。そして医療に助けられて体調は好転したものの、ホルモン補充療法にも医療費がかかり続ける。ワクチン再接種も必要。眼科、歯科、整形など多科で検査や対応を受けているという。
妊孕性温存に保険適用を、と声を上げたのも同じ理由なのだ。がんを診断されたその時から、ともかくお金がかかり続ける。2010年~2014年に「つばさ支援基金」を運営したが、その4年間、「治療法があるから働ける」が、しかし「働かなければ治療費が払えない」という事実に向き合い続けた。
小児がんも成人のがんもすばらしく成績があがって、いまは「がんは長期に付き合う時代」となった。だからこそ、抱え続ける諸問題もたくさんある。経験者の皆さんと一緒に今年も発信し続けたい。
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