『スマホ脳』

シンプルな文章、語り口に助けられて、あっという間に読み終わっていた。そしてとっても納得させられた。

――今あなたが手にしている本は人間の脳はデジタルに社会に適応していないという内容だ。昨今のコロナ危機でスマホが外界とのライフラインとなった今、・・・・・読むべきだと私は思う。人間は1万年前となんら変わらない生物なのに、ここ10年ほどで暮らしはすっかりデジタル化している。と、作者であるハンセン博士(1974年、スエーデン生まれ。精神科医)自身が前置きして、本書は始まる。ちなみに前述の文の太文字もそのまま写した。

2020年に入って唐突に新型コロナウイルス問題が世界を覆い、人と人とが直接会話(意思の伝達)をしてはならない、となってしまった。そこにちょうど人々はスマホという便利なものを手にしていた。しかし、「そのスマホで行う伝達、情報の交換、スクリーンを通しての学習などは、果たして人類にとって効果的でかつ安全なツールなのだろうか。いや、そうではないからこそ、深刻な睡眠障害や鬱に悩む人があまりにも増えている。ちなみにスティーブンジョブス初めIT業界のトップはわが子にデジタル・デバイスを与えていない」とハンセン博士は言う。

実は私のスマホデビューは今年に入ってから。それまでは電話は携帯電話(いわゆるガラケー)で、ラインや出先でのEメールチェックはiPadだった。それでも暮らしがデジタルツールに指示されていることは、どことなく感じてはいた。目覚ましと歩数計は携帯電話、常時ラインとメールの着信チェックはiPadだったので、さあ寝ようとなると双方を手にして移動する。そんな自分の行動に「あー、これはいかがなものか」と、昨年秋くらいから気になってきた。電磁波が脳の周りに張めぐらされている、ということも気になっていたが、夜半にふと目が覚めた時に「送っておいたメールへの返信が来てるかも」と覗いたり、今何時だっけ、とスクリーンを開く自分に気づいた。それ以上に、目の奥にいつまでも光が残る、つまり脳に残像が線を引く。これはいいことではないなあ、と思うようになったのだった。

それでもいくつかの利便性を考えてガラケー卒業、スマホデビューに至った。そうして、本当にびっくりした。ラインもヤフーニュースも、いわゆるSNSはこんなに小さなスクリーンで展開していたのか…。iPadで見ていた情報とは、ほとんど別のイメージだった。それでもこのスクリーンでSNSに参加するのが自然の人たちには、何の抵抗もないのだろう。ただともかく、目にも脳にも良くないことは案外多くの人が(使いながらも)感じているのかもしれない。

ハンセン博士は指摘する。記憶力も集中力も低下する、と。読書していても勉強していても、常にスマホからの合図で中断される。中断されなくても、スマホがそこにあるだけでチラチラとそちらを意識している。博士自身が、時間の無駄だとわかっていてもスマホが手放せない。だからこそ弊害に気づいて、研究を開始したのだ。大学生にスマホを廊下において授業を受けさせたグループと、机の上に置いたグループとで、授業の記憶が20%も違ったというデータを報告している。

ーー新しいテクノロジーに適応すればいい、と考える人もいるが、私は違うと思う。・・・テクノジーが私たちに順応すべきなのだ。 2020年4月 アンデシュ・ハンセン

本書を読んで良かった。スマホデビューする直前から、目覚ましは「目覚まし時計」を買ってラジオの横に置くようになっていた。気づけば深夜にメールをチェックし、慌てて返信する必要はなかったのだ。人が働く時間に働けば良い。寝る2時間前にはパソコンは閉じて、紙の本で読書し、朝は目覚まし時計のチコッチコッチコッの優しい音で目覚める。夜間覚醒がめっきり減ってきた。

もう一つ、なるほどと得心したのは、脳の疲れを取り、同時に退化を防ぐのは「運動」である、という指摘だった。軽く汗ばむ程度の運動(速足の散歩など)こそ、脳にとって最も良い。脳の研究者による黄金の提言である。

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