『かるいお姫さま』

1864年にイギリスの物語作家・マクドナルドが発表したお話に、100年ほど後に画家のセンダックが挿絵を描いた。そのおとぎ話が脇 明子によって翻訳されて、2020年に日本で出版された。小さなかわいいサイズの物語絵本。絵本とはいえ、優しい簡素な言葉遣いだが、語り口は深く、哲学的な示唆に富んでいる。だからこそ150年を超える時を経ても読み継がれているだろう。

ちなみマクドナルドはルイス・キャロル(「不思議の国のアリス」の作家)とは家族ぐるみでの親交があったとか。マクドナルドの他の作品には「金の鍵」「姫様とゴブリンの物語」などがある、と言えば、なるほど!と気づく人もいるかもしれない。そう、「ホビットの冒険」「指輪物語」のトールキンは、この作家の作品に大きな影響を受けたそうだ。キャロルやトールキン、そしてマクドナルドの物語の世界は、湿潤で少し暗くて暖かくて、時には「今を離れて」ゆっくり還りたい、「懐かしい処」だと思う。

『かるいお姫さま』は、王様がこの子の洗礼式に招待することを忘れた親族(王様の実の姉)が、「忘れられたこと」を怒り、お姫さまの洗礼式に潜り込んで呪いをかけたことによって「姫はすべての重さを喪う」ところから始まる。それからのお姫さまは、体も軽いが、心にも重さがない。「重さ」が理解できないお姫さまは、困った顔や怒った顔、叱責している人の態度、恐れおののいて慌てている人の様子をみると、身体をよじって笑い転げるのだ。もちろん、悲しみも理解できない。王様はわが娘の普通ではない心身を心配し、手を尽くして治そうとするが、軽さを喪った理由に気づいていないために、全てが空振りのまま時は過ぎて行く。そしてやがて、これは物語なので当然、旅の王子様が登場して…。

お姫さまは「かるい」が、物語の文章は時代の反映だから一行ごとの意味合いは軽くない。

「お姫さまは笑いの精になったかのように笑いますが、ただ、その笑いには何かが足りないものがありました。・・・・・それは、悲しむことができる人にしか出せない、細やかなニュアンスのようなものかもしれません。ともかくこのお姫さまには、「ほほえむ」ということはなかったのです」。

そう、声を上げて笑うことは、案外直情的で反射的な行為なのかもしれない。痛い瞬間にも笑ってしまうことだってある。しかし、ほほえんで相手をみつめることは、相手の心情にそっとふれることでもある。笑いとほほえみの違い。150年も前の物語に得心させてもらった。

A.Hashimoto's blog

母の心、ふんわりんりん…

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