共にある想い

小児がんの臨床現場の様子が描かれた『エリー』は、30年以上前にアメリカで発行された本、と記憶している。その頃はまだ小児がんの子が助かる見込みが低く、治療中の様子も過酷だった。

私の息子は小児白血病の中でも慢性骨髄性白血病だったため、慢性期にはほぼ元気に通学を続けることができた。それで私には骨髄バンク設立運動に邁進できる余裕があたえられたと思う。それでも小児がん医療の何たるかも全く分からず、ともかく骨髄バンクがあれば息子が救える「はず」という、一縷の望みだけで周囲を巻き込んでの責任ある立場に立ち続けるのは辛かった。その骨髄バンク設立運動の渦中で読んだのが『エリー』だった。

印象に残っているのは、その日の仕事を終えて通勤のバスに乗ったナースが、座席を取り合って争う大人の客を見て内心でつぶやく言葉、「わからないのよ、あなた達には。懸命に生きようと頑張る子ら、それを見つめる母たちの想い、なんて」。おそらく文章は正確ではないと思うが、そのナースは怒りにも似た感情でばかばかしい争いから目をそらすのだ。ほかの詳細な描写はほぼ忘れたが、小児がんの子らをエリーという少女として描いた物語の一コマである。

多くの血液がんが治って患者さん達が社会復帰していく昨今ではあるが、それでも他のがん治療と同じく、社会復帰=完全復活とは言い切れない。再発の不安が残る場合もあり、治療にかかった時間や身体機能の一部や人生の予定など、失ってしまうものも多い。つまり時代はがんが治るようになっているが、1人ひとりの診断の衝撃と治療においての辛さや孤独感は単純なものではないはずだ。

だからこそ医療現場や創薬の尽力を共有し合う場(セミナーや情報紙)を提供しようと、小さな法人を維持している。この場を通して、いま辛いひと、いまも辛いひとに向けて、医療や創薬やコ・メディカルが共にある、と伝え続けたい。

A.Hashimoto's blog

母の心、ふんわりんりん…

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