どうぞ!

スマートフォンの機種を変更して翌日、地下鉄に乗れなかった。PASMOの再搭載が済んでいなかったのだ。以前もスマホの電池切れで交通機関が利用できず戸惑ったばかり。その経験があったので大慌てはしなかったが、「スマホに依存し過ぎていると、いざという時は弱いなあ」と、それが気になった。

書店やデパートで買い物しながら、「PASMOの再搭載を完了すれば解決だな」「でもそれだけで良いのだろうか」「いざという時は現金(小銭)を出すつもりでいればいい」等とあれこれと考えつつ、そうだ、と思いついた。Suicaのカードも財布に入れておけばいい。

その時ちょうど私はJRの構内にいて、Suicaを手に入れるためにはちょうど良かったのだが、このところJRの券売機を使うのはえきネット予約のチケットを取るくらいで、ふと久しくそういう行為(ICカードを購入するようなこと)をしてない。改めてたくさん並ぶJRの券売機を眺めていくと、クレジットカード専用、遠距離用など様々であることに気づく。その中に、チケットやSuicaカードも買える券売機が2つ並んでいるのを見つけて立った。2台とも先客がいる。私は、みな上手くIC機器を使いこなしているもんだ、とぼんやりと考えながら、どちらかかが空くのを待って突っ立っていた。

その時だった。左側の人が去って、直ぐに小学校高学年くらいの男子がその券売機の前に来て、財布を片手に操作を始めようとした。私は、スマホが使えない程度のことで混乱してしまった頭のままだったので、その男子が割り込んだとは感じていなかった。すると、私の後ろに順番待ちしていたらしい人がするり、と男子に近づいて、「ねえ、こちらの人が次だよ。みんな並んでるんだ、キミも並びな」と注意したのだった。20代初めくらいの、もしかしたら学生かもしれない。そして彼は掌を上にして私に差出し、どうぞ、と薦めてくれたのである。一瞬の動きだったが、テクノカットの髪、整った顔立ちに私は内心で高得点を提供し、彼に「ありがとう」と言って、空いた券売機の前に立った。

私が暮らしの中で頻回に使うのは新宿駅なのだが、JRの乗降数は380万人だとか。それに連結して小田急線、京王線、地下鉄丸ノ内線、少し離れて西武新宿線。さらに新宿駅南口に隣接してバスターミナルのバスタがある。それらが地下道で網の目のようにつながって、縦横に人が通過している。一方でこの人数でも難なく利用できるようにいつの間にか自動改札になり、自動券売機になって、概ねICが対応している。それを、昭和生まれで田舎育ちの私は気持ち良いとは思わない。人影がもっと無いといざという時には本当に大変だろうと不安にもなる。でも今はそういう状況なのだ。慣れて、対応していくしかない。そうだとするなら、いや、だからこそ、か。人と人の接触の仕方に余裕が求められる。この処のスマホ+PASMO+Suicaで疲れていた頭に、彼の「どうぞ!」が心地よく効いた一瞬だった。

A.Hashimoto's blog

母の心、ふんわりんりん…

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