潤滑油×4

町内にいつも笑わせてくれる友人がいる。ご本人が笑いを取ろうとしているとは思えないが、挙措のあれこれが微笑ましいのだ。

外出にはたいてい小犬が3匹足元を走っている。犬たちはお母さん(彼女は‘犬たちを息子から押し付けられた’と言っているから、おばあちゃんかもしれないが)の足元で、路地裏で会う人ごとにワンワン、キャンキャン凄まじく賑やかである。この犬たち、ある朝の出会い時に、私に向かって懸命に吠え出した。ほら、あの家のおばさんが来たよ、と言いたかったのかもしれない。笑うのはここからだ。彼女、犬らに向かって「ワンワンじゃなくて、おはようでしょ?」と宣うと、満面の笑みで私に「おはようございまーす」。私ももちろんワンワンではなく、「あら、おはようございます!と日本語で、彼女と犬ら両方に声を掛けた。

おそらく犬が吠え声で迷惑を掛けているという自覚があってこそ、彼女は「ワンワンじゃなくて…」なのだろうと思う。この近隣は、山手線内のいわゆる木蜜エリア(古い木造住宅が密集している住宅街)のひとつで、持ち回りの町会役員も高齢化が進んで交替メンバーが不足している。そんな中、彼女はその集落で役員を務めて3年目になった。幸い路地向かいの我が家のある集落は8割が小学生の子がいる家で、役員が回ってくるのは7年に一度くらい。しかし微小な違いはあっても、学生用アパートも多く、一歩路地を出れば4車線の大道路が通っている。ともかくお互いの実情を気軽に、そして真剣に情報交換するのはたいせつなことなのだ。いつ大災害に見舞われて、命を支え合うことになるかわからない。

「あの家は年寄りの1人暮らし」「そのお隣はいつの間にか留守に」「お向かいのおじちゃん、心臓が悪いらしい」いろいろな情報交換をするために、挨拶に加えて笑顔で、1分でいいからお喋りを交わす。それは仕事の組織でも同じではないか。共生・共同するネットワークを可能な限り意識し続けるのは必須の日常業務なのだ。

日々、気づけば犬を連れた満面の笑みの彼女は、近隣の誰彼なく大きな声で挨拶をし、足元からは3匹の犬たちが協奏曲を奏でている。私には到底できないあの潤滑油っぷりには、本当に心から感謝である。

A.Hashimoto's blog

母の心、ふんわりんりん…

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