新聞紙
朝刊の一紙は、朝食前の運動を兼ねて速歩でコンビニに買いに行くことしている。駅前の広い交差点を挟んで2店舗のコンビニが向かい合っているのだが、当然のように信号を渡らずに済む店に入る。でもたまたまその朝は路地を出たら信号が青で、もうちょっと歩きたいな、くらいのつもりで向かいのコンビニに入った。
でも、あれ?新聞が一紙も無い。新聞用のラックがカラだ。「新聞は置いてないんですか?」と訊くと、私の言葉が終わらないうちに男性の店員が「ありますよ。どの新聞でしょう」。社名を言うが早いか背後からその新聞を取り出した。ほかに客がいないこともあってか、店員さんが「実はこのところ新聞を立ち読みして、買わずに出ていく人がいてね」と言う。私は「新聞を立ち読み?買わないで?」と聞きなれない話にびっくり。週刊誌の立ち読みはよく見る光景だが、新聞を立ち読みする理由はなんだろう。「それで、止めてくださいよ、と言っても聞かず、また次の日も同じことしたので、それで当分はこんな風に隠すことにしてるんですよ」。店員さんはかなり強い口調で「新聞は一度開くともう元の状態に戻せず、売り物にならない」と言う。なるほど、である。新聞は特有の柔らかさを持った「新聞紙」でできているのだ。新聞は綴じてない。折ってあるだけだ。たしかに一度開くとどう見ても「既読」である。
新聞ではないが書籍も紙がやや黄色であることは知っていた。真っ白ではない。活字の黒が浮き過ぎないよう計算された色なのだとか。週刊誌もマンガ本もみな地に色がある。だからこそ指先にも、何より眼にも優しいのだろう。そして、朝の新聞や書籍の新しいページを開いた時のかすかな匂い。新聞も書籍も用紙はそもそも木材から作られている、ということを遠慮がちに主張しているような気がして、何だかちょっと嬉しいな、と思う。
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