家族

遠慮がちの電話の声が、入院中の家族が「自分は元気なので、もう退院しても良いのではないか」と面会する度に言うのだが、どうしたらいいでしょう、と困惑している。そこで「相談員は医療者ではありませんが、一緒に考えることはできる」と前置きして、先ず患者さんはどなたですか?から確認していった。

患者さんは急性白血病で76歳の男性、相談者は奥さん。もともととても元気な人で仕事にスポーツにと、家でじっとしている人では無かったとのことだ。治療はいま4クール目を受けている、入院は無菌室、情けないほど痩せている(患者本人がそう表現している)、でもとても元気。

血液がんの治療は始まると長い、と言いかけて止める。そんな「評論」を伝えても、これまで家族の不安や疑問や辛さを受け止めて、ある意味もっと不安で混乱している妻(家族)にとっては、何の役にも立たない。そこで、「胃や心臓などと違って、血液のことって病気も治療法もイメージがつかめないですからね」と言ってみる。すると相談者さんは堰を切ったように質問を繰り出した。

痩せているが元気なので、そろそろ退院の話は無いだろうか?夫が病気を理解したいと前から言っているのだが、資料は無いか?病院食に飽きている夫に焼き菓子を持って行って良いか。

疾患理解の資料は、ご本人が検索できるなら当法人のサイトにもそこそこあるので、それを薦めるようにアドバイス。しかし、それについてはやや上の空なので、相談者さんはご自身の話相手がほしかったのだな、と思われた。そこで患者本人よりもっと医療から遠いところで抱えているであろう不安や想いに寄り添うことにした。

「聴いている私も素人ですが、今は医師が決めた最良の治療と優れた看護とで良い状態に保たれているのだと思います。でも退院間近ではないことは確かです。いま無菌室に居なくてはならないのが何よりそれを物語っています。食べるもの、飲むもの、本など手に触れるものなど奥さんが持ち込んで提供するものは、ともかく全て担当の看護師さんに確認してください。奥さんも囲む医療チームの一員だと思ってください」。そうですよね、なるほど、と相談者さんの声が少し上向く。そこで、相談員の責務として、治療法やその進み具合、検査結果、今後の予定等の訊き方を一通りお話してから、「血液の治療って、始まったら途端に具合が悪くなりますよね。診断と同時に急ぎ入院を、と言われたとしても、その時点では割とお元気だったのでは?」と言うと、そうなんです!と納得。血液疾患の特徴の1つがこの点にあると思う。それがまた素人である本人も家族も混乱するもととなる。そして治療期間が長い。疾患によっては「経過観察」などという「医療が何もしてくれない」期間があったりする。

家族として何もしてやれないことを不甲斐ないと思うでしょうけど、痛みや不安、時にはとんでもないほどの退屈に耐えているのはご本人で、それを「そうね、そうね」と理解して受け止められるのは一番近いご家族だけです、と言うと、とてもよくわかりました、と声がいっそう和らいだ。このあとの面会での会話が穏やかでありますように。

A.Hashimoto's blog

母の心、ふんわりんりん…

0コメント

  • 1000 / 1000