身辺情報

出先の在来線のホームで、小さめのカートを引いた女性から「これ、○○方面行きで良いでしょうか?」と控えめな声で尋ねられた。いま構内アナウンスがそう告げたばかりだったので、私はマスクをしていて表情が足りないだろうと思い「そのようですね」と言って大きく頷いてみせた。年齢もそれほど離れていない様子だったせいかもしれないが、その女性が「ああ、良かった。いえね、いつもは車ばかりで行くので、電車に慣れてなくて…」とおっしゃる。うーん、と一瞬参る。こういう一言に「あらま、そうなんですか。でもたまには電車もいいものじゃないですか」などと対応する器用さが無い私は、どうしよう、と一瞬緊張してしまうのだ。

私の後方にその女性が移動して視界から見えなくなって、私の緊張がゆるんだ瞬間、「こちらはホーム柵です」と目の前でキッパリした声のアナウンスが!電車が到着すると柵が上に移動して行くので気を付けてください、とのことだ。まさか「ホーム柵」が主語で喋ると思ってなかった私は、ここでまた仰天してしまった。よく見る硬質の扉では無くて横にロープ数本延びているという個性的なホーム柵は、そう言われれば手を添えていたりしたら危ないかもしれない。どっちにしても、電車が侵入してきたり出て行ったり、ホームは駅で最も危険な場所である。点字ブロックもホーム柵も視覚障碍者の皆さんの安全にとって不可欠な設備だから、大いに喋ってもらわねばならない。

そして実は翌日も同じく駅から移動したのだが、2日目のボックス席は私以外は20代くらいの仕事仲間らしい女性3人だった。これがまた寸秒も途切れることなく喋り続ける。おかげで私は彼女らが、ここに来て物価高騰と税金が取られまくりで本当に参っていること、でも今日は3人でちょっと頑張って(約9000円のランチなどの)日帰り豪遊すること、そのランチの計画を年上のなんとかさんが「優雅ねえ」と皮肉ったけどちっとも優雅なんかじゃないんですけど、とのこと、一方で上司のナントカさん(男性)はいつも仕事場の空調にうるさくて参るが悪い人ではないこと、などを知ることになった。

世界に目を転じれば、医療が必須なのに薬ひとつ無い環境下、おしゃべりどころか必要な言葉さえ発することを禁じられている人々が数億人もいる。

いつもは車での移動なので電車の乗り方に慣れていない人や、仕事も真面目にして税金も内心しぶしぶながら正しく収めたまに豪華ランチの3人組も、(そして喋るホーム柵も)こうしてさりげなく周囲に情報を提供しながら「緊張感のない、怖くない混雑」を構成している。その1人で居られることに心から感謝したいと思った。

A.Hashimoto's blog

母の心、ふんわりんりん…

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