少しだけ無理を
血液の領域にナナメから関わって40年ほど。最初は、血液がんは白血病しか知らなかった。長男の疾患が慢性骨髄性白血病だったことから、白血病にも急性と慢性があることを知る。骨髄バンク設立運動の余波もあって骨髄移植が治せる医療として社会に知られるようになっていくが、私は抗がん剤を投与することで治る白血病もあることも理解していった。
1997年頃から、多施設の臨床現場から届けたい情報を多施設で治療を受けている当事者に伝えるセミナー活動に、製薬企業の社員さん達が協働を申し入れて来るようになった。それで私たちの手作りのセミナー開催が一気に機能的になる。それはそうだな、と感謝を持って協働をお願いしながら思った。医療は薬が無ければ成立しない。薬の開発は創薬の仕事で、それを使うのは医の役割で、そしてそれをつなぐのがMRさんや製薬の広報の人たちなのだ。いわば医と薬の橋渡しのプロなのだ。この協働のおかげでセミナーの効率化が格段にあがったのだった。
昨年は10会場でセミナーを開催し、血液がんの疾患解説と薬・治療法の動向を学ばせてもらった。分子標的薬や抗体薬の登場。そして、ある疾患に開発された薬がほかの薬との組み合わせで治療できる疾患を広げている。そしていま本人の免疫細胞を取り出して鍛え直し、抵抗力を高めて戻すという治療法も登場している。「移植でしか治せません」と言われた白血病は薬で治せるようになり、その移植も医・薬の尽力で大きく成績を上げている。かつて治療を繰り返したが再発を繰り返して残念な転帰を辿った友人たち。でも「その診断名」に対しても、今は新しい薬が提供されつつある。世界の医・薬は、休むことなく新しい地平を越えて進んでいる。
かつて腎性貧血に使われていた薬を骨髄異形成症候群にも適用してもらうため、適用拡大を求めて厚生省(当時)に嘆願書を送った。その薬が承認された時、この薬の適応拡大を強く推奨しておられた血液内科の先生に会いにいった。先生は優しい笑顔で「悲願達成」と一言。その薬は今やほかの薬との組み合わせで、いくつもの血液疾患の治療に効果を上げている。
素人ながら私は協働の力・効果を実感してきた。だからこそ思う。「協働」は1人ではできないからこそ、時に手応えを感じるのが難しいこともあるかもしれない。でもそんなときは、協働の先にいる「医・薬の情報を待つ」患者さんたちのために、私との連携に心からの感謝を込めつつ、少しだけ無理をしてほしいと願っている。
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