かぶれですね
超有名ブランドの化粧水の小さなサンプルをいただいたことがある。もう20年くらい前のことだった。普段はブランド品を全くと言って良いほど使わないのだが、1本買ったら〇〇円!に負けて、洗顔後の顔にぱしゃぱしゃつけて、何かを期待して、眠ったのだった。
翌朝、顔全体のほてりで目が覚めて、洗面所で飛び上がった。スイカみたいだ、と思った。もちろん色は緑と黒の縞々ではなく、全体に赤く、よく見ると小さな湿疹になっている。何らかの不安はあったのだ。海外ブランドの化粧品では、口紅だけはつけることがあったが、唇が時折かゆくなることがあった。色素が合わないのかもしれない。
「だから、止めたほうが、と言ったじゃない」と自分に向かって呪いの言葉を吐いてから、今日の予定を考えた。午後、日本骨髄バンク(当時は骨髄移植推進財団)の電話相談窓口に出向くことになっている。相談員さんが2名いるから、多少は遅刻しても対応していてくれるはず。ともかく病院に行って、できるだけ早くこの腫れが引くように薬をもらおう、と思った。
今と違って、紹介状が無くても急性期の大病院で受け付けてもらえる時代だった。総合受付で「皮膚科に」と言うが早いか(そんな気がした)、無言で即、皮膚科の受付表を出してきた。皮膚科の外来で呼ばれて入ると、若い女性の先生がおられて、私が座ると同時に、「かぶれですね」。そして直ぐに立ち上がると、衝立の向こうに入っていく。すると間もなく、もう少し年上の中堅どころという感じの女性の先生が出て来られた。そして私をのぞき込むと「かぶれですね」。私は、はい、これが原因です、とサンプルを差し出した。その先生はそれを持って奥へ引っ込んだ。すると今度は、どう見ても部長級と思われる女性の先生が出て来られて、「あー、かぶれですね」。私は内心、もう、わかりましたデス、かぶれですと呟いて、声に出して「薬をください」と言ってみた。すると先生は割とにこやかに一言「ありません」。そして、「この化粧品をもう使わないでください。それで数日で鎮まっていきますよ」。でも先生は、「書かれている添加物の、何がかぶれの直接の原因か、調べましょうか」と言ってくださった。いつもブランド品は使わないのだから、今さら要らないかな、と思ってそれはお断りして、一件落着としたのだった。
いまの医療体制なら、近くの皮膚科のクリニックで診てもらって、仮に化粧品が原因ではないかもしれないと思われれば急性期の病院に紹介されることになる。当時は、どちらでも可能だった。そんなこともあって、典型的なかぶれだけでやってきた患者が、皮膚科の先生方にはめずらしかった(のだろう、と勝手に推察)。00年以降、少しずつ病院の整理統合が進んで、いまや紹介状なしに大学病院などの急性期の施設には行けない、という認識が市民の常識になりつつある。
ところで私のかぶれは、電話相談窓口の相談員さんたちを「キャー、かぶれですね!」と喜ばせたり笑わせたりして、2日もしないうちに引いた。以来、化粧品全般、食べるものも飲み物も、添加物は皮膚に付けずお腹に入れず。私以上に皮膚の弱い娘と、可能な限りの無添加生活を心がけている。
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