乙武さんが、歩いた!
昨日の毎日新聞で表紙写真を見たばかりなので、まだ購読できていないが一冊の本の出現に感動した。『四肢奮迅』(乙武洋匡、講談社)。表紙のリードは、「歩く」とはこんなにも大変なことだったのか!
実は乙武さんは娘の高校時代の2年先輩、ということと、その高校が我が家から歩いて15分ほどの処にあることから、ハイティーンの頃からを遠巻きに知っていた。高校と我が家との間に広い公園があって、その一角が運動公園になっている。ある日の散歩の折、そこで行われていた野球の練習試合を熱心に観戦中の乙武さんを拝見したことがある。そんな距離感である。
だからというわけではないが『五体不満足』を、ああこれは読まなくては、と感じて出版と同時に購入した。そのころの私は、日本骨髄バンクで電話相談のチームリーダーの立場にあった。医療を受ける人々の困惑や苦しみに寄り添う日々だった。
そして、四肢の無い息子を最初に見たお母さんが「可愛い!」と言う行(くだり)に深く共感し、これは福祉と社会全体を変えていく一冊かもしれないと、感動したのだった。
なによりも本人が書いたことがたいせつだと、いまも思う。同時に、というか少し論点が飛ぶかもしれないが、この傷害を抱えたまま自由な(に、近いかと思われる)行動範囲を保障できる経済力と、精神の張(はり)とを持っていたご家族の力を、思うのだ。
少し時間が流れて、自立して二足歩行するロボットアイのアイボが登場した時、娘とその記事を読みながら「ここまで工学的に発展する意味合いは、どんなものかな?これも戦争にいくのだとしたら、嫌だね」「それは負の側面として考えられるけど、でも一方で、いつか乙武くんが歩くようになる、という希望を持とう」という会話をしたのだった。
アイボくん登場から10年くらいだろうか?ついに乙武さんは立ち上がった!
文明の力は、すばらしい。私が関わる領域では、薬の開発によって本当に多くの血液がんが長く生きられるようになった。一剤の開発は、対象の1つだけの疾患が寛解する、というだけのことではない。まず疾患の機序が理解された、という前提があって、それは血液の基礎学問全体に多大な影響を広げていく。開発された薬は、他の既存薬との組み合わせでさらに多くの疾患へと適用され、治療効果は加速度的に上がっていくのだ。
乙武さんの「歩行」は、工学系の研究と開発のたゆみない向上がもたらした「成果」で、これこそが文明というものだと思う。この事実は、福祉の意味合いの拡大、家屋内外と街の整備促進、何よりも人々の心理への波及効果をもたらすはず。戦争なんかにお金をつぎ込んでいるのは、あまりにももったいない。
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