ゆとり求めて
地方都市にいくといつも、「家が大きい」と思う。庭も広い。もちろん地方都市でも市街地と郊外では大きく異なるが、それでもどちらにしても、住まいや店舗の間取りにもゆとりがある。のどかな感じがするのは、そのためではないだろうか。
私の家は山手線の内側にあって、新宿へも銀座へも上野へも30分かからない。このあいだ計ったら、新幹線とのドアツードアが25分だった。東京駅までが25分ではなくて、家の玄関から新幹線のドアまでのことだ。ある人が「嫌味なくらい便利」と言って笑ったが、それくらい便利。ただし、便利の自慢をしているのではなくて、家が狭いという話。銀座ほどではないが都内の土地はどこも高くて、だからこそ、売られる度に小さくなっていく。我が家も、ついには私共の家となった時点で最小となっていた。我が家と両隣の家は、もとは大きな一軒家だったそうだが、それが等分に3つに分けて売り出されたのだとか。そのうちの一軒が、やがて私共の住まいとなったのだった。
3年前にお隣の片方が売りに出され、いったん更地になった。それで改めて、こんなに狭いのか、とがっかりしてしまった。やがてお隣には3階建ての家が建ち、若いご一家が引っ越してきて、いまは賑やかに暮らしている。しかし、ご近所のウワサ雀が囁いた家の値段を聞いて飛び上がってしまった。地方だったらりっぱなお屋敷が建つでしょう。
今は建築基準法が厳しくて、家を新築するときにはセットバック(敷地と公道との距離)が厳しく決められている。一昨年、耐震補強工事を兼ねたリニューアルをしてわかったことは、もし新築にしたら我が家もそうとう後ろに引っ込むことになるのだそうだ。だからこのまま住み続けるのがお得だから(とは、正しい建築士は言わないが)、補強をしっかりして安全をプラスしましょう、ということになった。
そこで私は、その正しい建築士さんに3つ、お願いをしてみた。1.狭いからこそ、玄関を引き戸(横にからからと動かすドア)に。2.玄関わきの壁に窓を開けて(光を取り入れて)。3.家の前の空き地を、可能な限り土のままに(コンクリートを打たず、花壇に)。
いま、光が射すことの豊かさに、とても感謝している。家が広くなったわけではないが、ちょっとだけゆとりが生まれた気がするから不思議。引き戸の玄関は、ドア前に花の鉢が置けたりする。いま、小さな花壇には、蝶々が飛んでいる。そしてその脇においた水連鉢では、ホテイアオイの下でいつのまにかめだかの家族が増えた。光、緑、土。昨今の厳しい世情を受け止めきれない心を、いっとき和らげてくれて、ありがたい。
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