ろうそく
大阪フォーラムの翌日に、CLL患者会のZOOM司会を依頼されていた。午後1時にはパソコン前でスタンバイしなければならない。前夜は「たいせつな終了後懇親会」があったので大阪泊だった。その翌朝、駆け足で新幹線に飛び乗って都内の自宅に帰る気力がそもそもないはず、と「経験上」とっくにわかっていたので、京都の駅近くに別のホテルを取った。せっかくの関西出張、京都で旅気分を味わいたい。このくらいのおまけ、許されるだろう。
京都の駅に久々に降り立った。世界の観光客があこがれて押し寄せる古都。この京都で特に好きなところは?と訊かれたら、銀閣寺の近くから続く哲学の道かな、とうっかり答えそうになる。でもそんな風に一か所を挙げてしまってはいけない。京都についての正しい答え方は「どこもかしこも由緒ある界隈で…」と控えめにいうべきだろう。
そんなわけで京都駅前のホテルに着いたが、アーリーチェックインの1時にはまだ十分に余裕がある。それが狙いで、駅前にした。駅から歩いてちょっとだけ散策できるとしたら、東本願寺と西本願寺。先ずは、東本願寺へ。本堂で読経が行われていたので、隅に正座してしばし頭を垂れる。板の廊下を気持ちよく踏んで、進めるだけ進んで折り返し、元の階段を降りて靴を履き、また本堂に一礼。正門から出て、西本願寺へ。濠に睡蓮がたくさんの花をつけている。心底、きれい、と思う。そして、西本願寺で気づいたのだが、廊下の板のところどころ、傷んだ(虫食いかな)処が修復してあるのだが、埋めてある木片が茶壷や扇子の形なのだ。大工さんの遊び心に思わずしびれた。
夕刻、ZOOMセミナーが無事に終わり、ほっとして次のお楽しみに向かう。大阪のフォーラムにもお付き合いくださった友人が、京都で夕食をいかが?と言ったら即応してくれたのだった。彼女は、何処の街ででも「美味しい店」を見つけ出す名人なのだ。その日、指定してくれたのが木屋町にある「ろうそく」というお店だった。夏の夕暮れの風が抜ける路地裏に、そのお店はあった。いただいたのは正真正銘の「料理」だった。たとえばお芋の煮たんでも、面取りがきれい。いやみのないお出しの味に、肩の疲れまで抜けていく。お酒は、その飲める友人と声をそろえて、「うーーん」。
ところでなぜ「ろうそく」か、聞いて納得である。ご実家が和ろうそくの老舗なんだそうだ。祇園祭りが今年はできず、残念だ、商売もあがったりで…、とやわらかい京都イントネーションで嘆かれた。本当に。昨年までの京都では、京都駅からバスに乗るのに30分くらい待つこともあった。タクシー待ちも同じくらい。あれほど混まない方が、と思わないでもないが、コツコツとそれぞれの技術を磨きながら進める仕事は順調であってほしい。「お店にもおいてあった和ろうそく、買って来ればよかったな」と後で思った。いや、友人たちと誘い合ってまた行こう。その時は、西本願寺の廊下にも一緒に行って、補修あとの茶壷を見て笑いたいものだ。
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